金融研究 第17巻第4号 (1998年10月発行)

第8回国際コンファランス
(キーノート・スピーチ2)
情報技術と金融政策(Information Technology and Monetary Policy)

ジョン・B・テイラー

 コンピュータ等に関する情報技術は、金融政策に対して、①政策目標や手段に関する不確実性を増加させることを通じて政策判断をより困難にする効果と、②情報処理を効率化したり、不確実性をよりよく数量化して扱い得るようにすることを通じて政策判断をより容易にする、という2つの相反する効果をもたらすが、②の効果が勝ると考えられる。
 すなわち、情報技術革新の進展があったからこそ、合理的期待仮説の出現以降に導入されたフォワード・ルッキングで多数の先行・遅行変数を含む複雑な経済モデルを用いて、金融政策のルールを評価することが可能となった。その具体例として、インフレ率と失業率に関する政策目標に関する損失関数の値を最小化するよう短期金利を調整する政策ルールである、いわゆる「テイラールール」に関する研究をみると、モデルの定式化に関する不確実性に対しては、これまで得られたような政策ルールが一定のロバストさを示す一方、マクロ経済に対するショックの永続性や金融政策が実質生産や物価上昇に与える効果に関する不確実性がある場合、ロバストな政策ルールはよりアグレッシブであるという興味深い結論を得ている。
 政策ルールは、米国では中央銀行や市場参加者の意思決定のガイドラインとして活用されており、他の先進国でも活発に研究されている。今後は、このような情報技術革新の成果を金融政策の実用的な政策判断に翻訳するプロセスの開発に注力する必要がある。


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