本研究では、金融研究所所蔵の貨幣資料について、法量計測ならびに鉛同位体比測定を行った。対象とした銭貨は、日本の中世から近世初期にかけて、中国銭などを模して鋳造した銭貨、いわゆる本邦模鋳銭である。本研究で採用した鉛同位体比分析とは、銅に鉛やすず錫などを混ぜて鋳造された模鋳銭のうち、鉛部分を抽出して化学分析を行う手法で、鉛の同位体の比率によって原材料の産地推定を行うものである。それらの分析結果を歴史的に位置付けることにより、模鋳銭の原材料調達に関する変遷が、以下のような3段階として整理できることが明らかとなった。
第1期 島銭に典型的に見出せるように、主として中国産の鉛が原料として使用されている段階(14世紀頃)
第2期 鋳写銭に典型的に見出せるように、中国産の鉛が使用されたものと日本産の鉛が使用されたものが混在する段階(15世紀頃)
第3期 加治木銭・叶手元祐に確認できるように、若干海外産の鉛を含むものもあるが、基本的には中国産の鉛ではなく、日本産の鉛が使用されている段階(16世紀~17世紀初め頃)
キーワード:模鋳銭、島銭、鋳写銭、加治木銭、叶手元祐、法量計測、鉛同位体比測定
掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。