債権流動化のスキームにおいては、オリジネーターの経営状態の影響等によってSPCが倒産手続に入らぬよう、倒産回避(bankruptcy remote)のための措置を仕組む必要があるが、これは、倒産状態の発生を防止する措置と倒産状態が発生していても倒産手続の開始を防止する措置とに大別できる。本稿では、後者の倒産手続防止措置について検討する。
倒産手続防止措置のうち、債務者(SPC)が倒産手続の自己申立権を放棄する合意は、アメリカと同様、効力を有しないと解される。また、アメリカなどで利用されているcorporate governanceによる間接的防止も単独取締役による準自己破産を認める日本法の下では実効性を有しないため、完全な防止は不可能である。ただ、自己申立てに破産原因を要求し、倒産手続を経営戦略の一環として利用する慣行のない日本の現行倒産制度およびその運用の下では、スキームの安定性は実際にはそれほど損なわれないと見られる。
非自己申立ての防止については、債権者による倒産申立権の放棄は、公序による一定の限定があるが、私的自治の原則に基づき一般には有効と考えられる。また、倒産申立権の放棄による対応が困難な投資家との関係では、責任財産限定特約が倒産申立防止の役割を果たし得るが、この特約は、執行法上の責任限定特約の一種として一般的に有効であり、それが実体的契約とされる限りで倒産手続内でも有効と考えられる。
キーワード:債権流動化、SPC、倒産手続防止措置、破産申立権放棄の合意、責任財産限定特約
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