金融研究 第16巻第2号 (1997年6月発行)

金融技術革新がマクロ経済変動に与える影響
─ マクロ動学モデルによる評価 ─

副島豊

 近年、電子マネーや金融EDIのような金融技術革新が注目を集めるにつれ、こうした技術革新が決済の効率性や景気循環に与える影響について、理論的・実証的な分析が求められるようになってきている。とくに、現金や小切手、クレジットカード等が主要な決済手段となっている小口決済については、今後の急激な技術革新が見込まれる。本稿では、個人の消費行動に伴う決済手段に焦点をあて、小口決済における技術革新が社会厚生や経済の循環変動にどのような影響を及ぼすか、カリブレーションと呼ばれる動学マクロモデルに基づいたシミュレーション手法により分析を試みる。
 その結果、まず、決済手段が多様化し消費財の購入には現金通貨が必要であるという制約がかからなくなると、資源配分上の歪みが縮小され社会厚生が拡大する点が確認されたほか、実物的な生産性を向上させる技術革新がなくとも、金融技術革新により現金の決済効率性が改善することのみにより経済成長を促しうることが示された。また、生産技術と金融技術の相乗効果を考察し、生産技術革新が現金の決済効率性を促すような金融技術革新に伝播することは、マクロ経済変動の振幅を抑え経済安定化に寄与する効果があること、さらに、現金の決済効率性についての技術革新がかなり大規模なものであっても経済を不安定化させる悪影響は小さく、経済変動のパターンにはほとんど影響を与えないという結果を得た。

キーワード:金融技術革新、決済効率性、カリブレーション、キャッシュ・イン・アドバンスモデル、現金財、クレジット財


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