本論文は、1996年9月19日に開催された標記ワークショップでの討議の模様を取りまとめたものである。
ワークショップでは、まず増田勝彦・東京国立文化財研究所修復技術部長から紙の技術史に関する特別報告があり、中国で生まれた製紙技術がわが国において洗練され、さらに19世紀以降ヨーロッパの製紙技術と融合するかたちで発展したとの経緯が紹介された。次いで大川昭典・高知県立紙産業技術研究センター総括主任からは、藩札の紙質分析結果に基づき、藩札に用いられた用紙は現在の和紙とは大きく異ならないとし、また稲葉政満・東京芸術大学大学院助教授からは、明治初期の江戸で流通していた和紙の分析結果に基づき、美濃や越前といった有力産地の紙は「高品質」のものが多い、という報告があった。さらに金融研究所の山岡直人は、形状やサイズ、印刷様式、および偽造・識別対策、といった観点から藩札を分類・整理し、それぞれの特徴について実物を示しながら説明した。
その後の討議では、摂津国名塩村の紙が藩札用紙に用いられた背景や、版木の材質および彫刻技法などをめぐって、活発な議論が展開された。また、流通藩札の品質管理のあり方についても議論され、藩札の場合、損傷・磨耗の目立つものをできるだけ流通させないよう、7年前後で回収・廃棄されていたのではないかとの見方が示された。
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