金融研究 第15巻第5号 (1996年12月発行)

委託研究から見た藩札の流通実態

鹿野 嘉昭

 本稿は、日本銀行金融研究所がこれまで実施してきた藩札に関する委託研究での研究成果を中心として、江戸時代に諸藩が発行した地方貨幣である藩札の流通実態を地域別・年代別に再検討したものである。この検討結果によると、藩札の流通実態に関しては、次の3点が指摘できよう。
 第1に、藩札の流通事例には多種多様なものがあり、通説のように幕末にかけて価値の急落や札騒動が発生する事例もみられたが、その一方で、藩専売制の実施により領外からの正貨獲得に成功した藩においては円滑に流通していた事例も少なからずみられた。
 第2に、藩札の流通状況を左右していたのは、貨幣としての一般受容性に対する領民からの信頼であり、各藩とも、十分な兌換準備の確保のほか、有力商人の信用を利用したり、藩札発行を藩財政から切り離したうえで有力商人に委託するなど、できうる限りの方策を用いて藩札の価値維持に腐心していた。そして、そうした施策が採用された藩では、多くの場合、藩札は円滑に流通していた。その意味で、節度ある藩財政運営が円滑な藩札流通の基礎を形成していたといえよう。
 第3に、藩札は、継続的に発行されるなかで士民生活のなかに定着し、利便性の高い交換手段として広く利用されていたことが窺われる。そうであるがゆえに、藩札価値の下落が見込まれる場合には、札騒動が発生したと思われる。

キーワード:藩札、紙幣の歴史、江戸期通貨制度、札騒動、藩専売制


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