金融研究 第1巻第1号 (1982年10月発行)

マネーサプライと経済諸変数間の因果関係
−パワー寄与率からみたマネー、所得、物価および金利の相互関係について−

大久保 隆

 パワー寄与率は時系列分析を応用した因果関係の検証方法の一つで、相互に影響し合う変数の間で、どちらが原因でどちらが結果であるかをチェックする新しい手法である。
 この方法を用いてわが国におけるマネーサプライと経済諸変数間の因果関係を分析したところ、次のような点が明らかとなった。
 (1)マネーサプライは名目所得に対して常に強い影響を及ぼしている。名目所得からマネーへの影響は第1次石油危機以前にのみ若干認められるが、これは1つには民間貯蓄のほとんどが、M2に含まれる貯蓄性預金に流入していたためと考えられる。
 (2)マネーサプライと物価の関係については、マネーサプライからGNPデフレーターに対して明確な因果関係が認められる。
 (3)物価と実質所得との間には、特に最近の期間においては明確な因果関係は認められない。したがって物価上昇を許容しても景気がよくなる訳ではなく、フィリップス曲線は自然失業率仮説の想定するような垂直に近い形とみて良いように思われる。
 (4)政策金利であるコール・手形金利からマネーサプライヘの一方方向の因果関係が特に最近の期間では明瞭に認められる。これはわが国のマネーサプライ・コントロールが政策金利を通じて行われていることを示している。
 (5)物価と利付電々債利回りとの間には、物価が金利に影響するというフィッシャー効果の存在が明瞭に認められる。
 (6)M1とM2+CDを比較すると、最近の状況をみる限り経済諸変数との関係はM2+CDの方が強い。これはM2+CDを中間目標として重視する金融政策にある程度の妥当性を保証していると読むことができる。
 (7)対象期間を第1次石油危機前と後に分けて計測してみると、わが国における金融変数と経済諸変数間の関係には明らかな構造的変化が窺われる。


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