ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2019-J-7

資産・負債アプローチが銀行規制における会計情報の有用性に与える影響

首藤昭信、伊藤広大

近年の会計基準設定の国際的な傾向として、財務報告の目的が、利益の決定を主目的とする収益・費用アプローチから、資産と負債の適切な価値評価を重視する資産・負債アプローチへと移行していることが挙げられる。本研究の目的は、資産・負債アプローチが、銀行規制における自己資本比率情報の有用性に与える影響を調査することである。具体的には、2007年から2016年までの日本の銀行(都市銀行、地方銀行、および第二地方銀行)をサンプルとして、銀行の規制自己資本比率情報と外部主体のデフォルト・リスク評価の関係を分析する。分析に当たり、各銀行の資産・負債アプローチの依存度を定量的に把握するためにDemerjian [2011]に依拠した指標を使用し、外部主体のデフォルト・リスクの評価には発行体格付を利用した。分析の結果、以下の発見事項を得た。第1に、規制資本比率の余裕度と発行体格付の間に有意に負の相関が観察された。第2に、銀行の資産・負債アプローチへの依存度が強まるにつれて、上記の負の相関関係が有意に弱まることが確認された。上記の結果は、バーゼル規制における会計数値をベースとする自己資本比率情報は、デフォルト・リスクの評価において有用な情報を提供している一方で、資産・負債アプローチへの依存度が高くなると、その有用性を失う傾向にある、と要約できる。これは、格付機関等の外部主体が銀行のデフォルト・リスクを推計する際に、資産・負債アプローチに大きく依存する自己資本情報を割り引いて評価していることを示唆している。

キーワード:資産・負債アプローチ、自己資本比率、格付、バーゼル規制


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