本稿では、近年マクロ経済分野への応用が進んでいる人工知能(AI)技術とテキスト・データを活用した数量分析の事例として、「マイナス金利政策インデックス」と「物価ニュース・インデックス」の構築法を示し、比較分析を行う。前者は、日本銀行が2016年1月に導入を決定した「マイナス金利政策」に対するセンチメントを、政府・日銀公表文書、国会会議録、経済ニュース記事から、単語の分散表現の手法を用いて日次で数値化した指標である。計測結果は、平均的にネガティブであったものの、2016年9月の「長短金利操作」導入に伴う長期金利の上昇に伴い、ネガティブの度合いは趨勢的に薄れてきている。これは、日本銀行の「総括的検証」で示された見解とも整合的である。後者は、経済ニュース記事から、現在の物価動向を日次で推計(ナウキャスト)する指標である。具体的には、物価関連ニュース記事からコアCPI前月比の動きに関係する特徴を抽出するようAIを訓練し、訓練済AIに最新のニュース記事を入力することで、コアCPI統計公表前に現在の物価動向をナウキャストする。月次での計測結果、単純な時系列モデルよりも高い精度が確認された。
キーワード:自然言語処理、分散表現、センチメント分析、ニューラルネットワーク、深層学習、LSTM、ナウキャスティング
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