ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2018-J-3

マイナス金利環境におけるファイナンス:課題と研究の潮流

大橋和彦

近年、欧州に続いて本邦でも短期金利が継続的にマイナスになる現象が生じている。本稿では、マイナス金利環境が引き起こす影響を整理するとともに、金融市場や中央銀行にとっての課題と、それらに対応する研究の潮流を俯瞰する。はじめに、本邦におけるマイナス金利政策の導入目的と、足許の状況を整理する。次に、期待インフレ率が一貫して低水準で推移するなか、マイナス金利の導入が実質金利を引き下げたと考えられる一方、新たな課題が生じていることを指摘する。さらに、そうした課題のうち、銀行の収益や年金・生命保険会社の資産運用に与える影響を考察し、マイナス金利の政策目的の達成と副次的な作用の抑制のバランスを取ることの重要性を指摘する。加えて、マイナス金利を巡る金融市場や中央銀行にとっての課題について、(1)価格評価ツールとしてのマイナス金利モデルとその利用、(2)中央銀行による政策の公表・情報発信と市場の反応の分析、(3)人工知能とテキスト・マイニングを用いた政策評価と経済予測といった3つの論点を紹介する。また、超低金利・マイナス金利に関する発展的な論点として、低金利環境発生の背景にある人口動態の変化、超低金利が市場の安定性に与える影響、マイナス金利の下限の決定要因とデジタル貨幣の普及の効果、マイナス金利下での金利の期間構造モデルにも言及する。

キーワード:マイナス金利、量的・質的金融緩和、金利モデル、情報発信と市場の反応、テキスト・マイニング、市場の安定性


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