規制改革の進展にともない、経済活動に対する適切な行政規制をどのように構想すべきなのかが、法学諸分野に対して、あらためて問われている。本稿においては、行政法学というディシプリンからこの問題に取り組むための基礎研究として、経済行政法という理論枠組みの有用性と課題を、ドイツにおける議論の蓄積を参照して考察した。
まず、経済監督および経済行政法論の歴史を概観し、第1次大戦をひとつの画期とする産業化の進展が、それまでの私法学の概念装置では対応できない現象をもたらし、経済行政法という学問分野の生成を促したことを確認した。
次いで、現在の行政法理論に対して、経済行政法という各論(ないし参照領域)がどのような寄与をなしうるかについて、2つの視点から検討した。
第1に、行政法の任務連関性をめぐる議論を紹介・分析し、個別行政領域と一般的な行政法理論の間に、経済行政法という媒介項を置くことが、限定的ではあれ行政法理論をより生産的にすることを論じ、第2に、行政行為、行政契約、国際化への対応といった、行政法理論の個別構成要素の進化にとっての経済行政法の意味に関する議論に検討を加えた。
そして、具体的かつ実践的素材のひとつとして、資本市場法における、私人の行為義務と行政が定立するガイドラインの組み合わせ、という手法を取り上げ、行政法理論における位置づけを試みるとともに、新手法の評価軸を提示した。
附編として、ライナー・ヴァール「行政と行政法の任務従属性」を訳出した。
キーワード:行政法、経済行政法、行政任務、行政規制、行政法各論、資本市場法、ドイツ法
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