ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2011-J-19

会計基準における混合会計モデルの検討

徳賀芳弘

 フロー・ベースの会計利益モデルについては、費用の配分や実現認識の時点を機会主義的に操作することによる利益管理が多く観察されている。また、金融商品の原価評価が行われているときに、その保有利得の実現による利益操作が市場をミスリードする可能性が問題とされてきた。前者の利益管理に関しては、当初、会計基準を業種ごと、および取引ごとに詳細化するという対応がなされ、その後、ストックの価値変化を根拠としてフローを認識するストック・ベースの会計利益モデルの適用に変更するという対応が図られた。後者の利益操作の問題に関しては、経営者の保有意図別混合評価という解決策(会計基準)が一旦は提示された。しかし、その後、競争的市場を擬制した金融資産の評価が求められると共に、他のストックとの評価規準の整合性を根拠として、金融資産以外に対しても公正価値評価が求められるようになってくる。この方向でストックの価値評価の範囲を拡げていくと、理論上は、会計利益から企業価値についての予測能力が失われ、それに替わって純資産簿価がその役割を果たすようになる。他方、少なくとも、これまでの実証研究の成果の多くは、金融商品および金融機関に関する研究を除けば、この変化の過程において投資意思決定支援と契約支援のいずれに関してもプラスの効果を指摘していない。こうした現実認識に基づいて、現実的で合理的な会計モデルを提案するとすれば、「忠実な表現」モデルと「のれん」モデルが考えられる。いずれのモデルも、現行の会計基準に比して投資意思決定支援機能を高め、同時に契約支援機能を低下させないという目標仮説に沿った修正案である。ただ、前者のモデルの理論的な位置付けは明確とはいえず、後者のモデルについては、制度・実務に落とし込む際に解決すべき理論上のミスマッチ(ダウングレーディング・パラドクスなど)の問題がある。しかし、金融商品の公正価値情報の価値関連性は高いという過去の実証研究の成果に従う限り、後者が優れたモデルということができよう。

キーワード:会計利益モデル、純資産簿価モデル、自己創設のれん、投資意思決定支援、契約支援、「忠実な表現」モデル、「のれん」モデル


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