ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2011-J-6

米欧における認識中止に関する会計基準と開示規則の動向:
リーマン・ブラザーズの「レポ105」を巡る対応を踏まえて

繁本知宏

 本稿では、経営破綻したリーマン・ブラザーズが行っていたバランスシート操作を目的としたレポ取引(「レポ105」)を題材に、そうした取引の再発防止のための米欧における対応を整理した上で、そのような対応が会計基準の適切な運用を確保する上で果たし得る役割と更なる検討課題について若干の考察を加えている。まず、レポ105に関するリーマンの会計上の対応の評価を、リーマン破綻に関する調査報告書(バルカス・レポート)に基づき示している。次に、こうした問題を受けた米国の会計基準と開示規則の改訂の動きを紹介したうえで、レポ105とは直接関係がない国際財務報告基準(IFRS)も同時期に改訂された点に着目し、その意義を検討している。そこでは、レポ105のように会計基準に準拠しながらも経済的実態を表さない会計処理をもたらす取引に対しては、IFRSのような原則主義の会計基準が一定の解決になる可能性があるものの、その適切な運用を促進するためには、注記・開示に関する規定をフレキシブルに改訂することによって財務諸表作成者や監査人を牽制することが有用であると指摘している。その上で、IFRSによる会計基準の国際統一が図られる中、会計基準以外の開示規則が国によって異なれば、国ごとに開示を通じた牽制効果に濃淡が生じて会計基準統一のメリットを減殺するおそれがある半面、各国固有の事情を勘案した開示規則の整備や柔軟な改正を通じて各国事情に応じたIFRSの適切な運用が可能になるとの見方もできるとしている。最後に、原則主義の会計基準の適切な運用に関する監査人のあり方について検討することが、今後の課題であると述べている。

キーワード:米国会計基準、国際財務報告基準、細則主義、原則主義、金融資産の認識中止、レポ取引、バルカス・レポート


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