ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2010-J-15

期待損失モデルに対する情報インダクタンスからの一考察 — IASB公開草案(金融資産の減損処理)を踏まえて —

越智 信仁、諸田 崇義 、米谷 達哉

 国際会計基準審議会(IASB)が昨年11月に公表した公開草案「金融商品:償却原価と減損」では、減損の客観的証拠のある場合に減損損失を認識する発生損失モデルに替えて、より将来を見越した減損処理が可能となる期待損失モデルを採用し、その具体的手法として「期待キャッシュフロー・アプローチ(ECF法)」が提案されている。ECF法では、期待キャッシュフローを推定するに際して、経営者の判断や仮定を多く必要としていることから、経営者の主観的見積り次第で各期に測定される減損処理額が、景気連動抑制効果(countercyclicality)をもたらす場合もあれば、ボラタイルに変動する場合もある。本稿では、こうした経営者の主観的見積りのメカニズムを会計と市場の相互作用に注目して分析する。その際、経営者の発する財務情報に対する市場の反応予想が、予め経営者の情報発信や企業行動を規定するという情報インダクタンスの視点から、減損の主観的見積りを巡る経営者と市場の行動に関してゲーム論を使った考察を行う。近年、国際財務報告基準(IFRS)へのコンバージェンスの影響から、経営者の主観的見積りを必要とする財務報告分野が一段と増えてきているが、そうした情報を分析・評価するに当たっては、情報インダクタンスのように、情報の送り手と受け手の相互作用を考慮する考え方が有用と考えられる。

キーワード:期待損失モデル、ECF法、情報インダクタンス、会計的裁量行動、実体的裁量行動、完全ベイジアン均衡


掲載論文等の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

Copyright © 2010 Bank of Japan All Rights Reserved. 注意事項

ホーム