ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2010-J-4

企業会計上の資本概念の再考

川村義則

 近年、会計基準の国際的収斂における課題の1つとして、貸借対照表上の負債と資本の区分に関する議論が進められている。会計上の資本は社会制度の中で多様な形で活用されていることを踏まえると、こうした問題を検討するうえでは、企業会計の関連領域(会社法や銀行規制など)での論点や検討視点も踏まえることも有用であろう。日本銀行金融研究所主催の「会計上の資本に関する研究会」(2008年8月~2009年6月)では、こうした問題意識に基づいて、企業会計の関連領域における資本の捉え方や会計上の資本の活用のされ方を整理したうえで、それが会計上の資本概念に与える影響や、企業会計と関連領域に共通する資本が兼ね備えるべき一般的特性を明らかにすることを試みた。本稿では、同研究会での議論も参考にしつつ、企業活動を動態的に捉える場合の資本(動態的視点から捉えた資本)に焦点を当てて会計上の資本概念を改めて検討したうえで、それと関連領域における資本の考え方との関係について考察する。こうした検討を通じて、(1)負債と資本の区分が、投資家の企業評価のプロセスにおいて、インプットとされる情報かアウトプットとされる情報かを区分する役割を果たしていること、(2)資本を動態的視点から捉える枠組みでは、報告企業の処分利益に上限なく参加できる金融商品を資本に区分するアプローチが整合的であり、永続的かつ劣後的な金融商品を資本に区分するアプローチも一定の貢献をなし得ること、(3)関連領域において資本に求められる基本特性を、会計上資本を動態的視点から捉える場合にそのまま当てはめるのは困難であることなどを指摘している。

キーワード:負債と資本の区分、資本と利益、基本所有アプローチ、参加型商品、永続性


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