ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2009-J-4

負債・資本の新区分と会社法

大杉謙一

 負債と資本の区分に関するわが国会社法の主な特徴として、(1)区分の基準を株式かそれ以外かという法形式に求めていること、(2)株式保有者(株主)に対する剰余金の配当や自己株式の取得については、貸借対照表上の純資産額が資本金・準備金等の総額を上回ることを要求していること(会社財産の分配規制とのリンク)が挙げられる。 こうした点を踏まえると、現在、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が検討中の金融商品に係る会計上の負債と資本の区分に関する新たな基準(新区分)をわが国の企業会計(金融商品取引法会計)に採用する場合には、新区分を会社法が全面的に導入するよりも、企業会計と会社法会計を分離するほうが、コストが小さいと考えられる。新区分を会社法に全面的に導入する場合には、現在の資本金・準備金制度を維持するかどうかにかかわりなく、会社財産の分配規制の定め方に大きな混乱が生じることが懸念されるためである。このほかにも、資本金の額で会社の規模を決定するという現行ルールの見直しが必要になるなど、仮に新区分を導入する場合には会社法との関係でいくつかの調整が必要となる。なお、企業会計において新区分の採用の是非を論じる際には、(1)その背景の1つとされる(資本を増やす方向での)企業によるストラクチャリングの増加は米国に特徴的な環境を前提としており、他国では新区分導入に伴う便益よりも高い費用をもたらすのではないか、(2)新区分は多くの問題を公正価値の評価に委ねているところ、監査をめぐる環境が整っていなければこのように裁量の大きな会計基準はデメリットが大きくなることが看過されていないかという問題について、検討する必要があろう。

キーワード:負債と資本の区分、資本制度、基本的所有アプローチ(basic ownership approach)、企業会計と会社法会計の調整、ストラクチャリング


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