ディスカッションペーパーシリーズ(日本語版) 2008-J-16

アメリカ法における預金口座担保と相殺

森田修

 ABL(asset based lending)取引の近時の発展の中で、我が国でも普通預金口座の担保利用・管理が注目を集めている。アメリカにおけるUCC(Uniform Commercial Code)第9編2001年改正は、預金口座を当初担保物として承認し、その公示方法を整備したものであって、我が国の実務の一層の展開にとっての重要な手掛かりが潜んでいるようにも思われる。確かにそこには、「コントロール」による公示制度や、これを具体化する「預金口座コントロール契約」のような示唆的な債権者間契約などといった新機軸も検出できる。しかし改正内容およびその立法の経緯に照らすと、それは新しい担保取引の枠組みを導入したというよりも、従来アメリカにおいて脆弱であった口座開設行の預金口座に対する支配を強化するという性格を持つものであることがわかる。改正UCC第9編はむしろ、日本法では既に確立している「差押えと相殺」の判例法理に機能的には対応する制度を開設したと評価すべきである。本稿はそもそも従来研究の手薄であったアメリカにおける銀行貸付と預金債権との相殺をめぐる法状況を跡づけ、とりわけ、預金者の他の担保債権者が有するUCC第9編の承認する在庫や売掛代金債権に対する人的財産担保のプロシーズが預金口座に混入した場合の相殺権との優劣のコモンロー上の取扱いを紹介するところから出発して、UCC改正の常設機関であるPEB(Permament Editorial Board)の資料を用いて、改正UCC第9編がどのようにコモンローの枠組みを一新したかを明らかにする。

キーワード:普通預金口座の担保化、差押えと相殺、担保のアンバンドリング、債権者間契約、ABL、プロシーズ


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