信用リスク分析では、資産価値が一定のデフォルト境界に到達するとデフォルトが発生するという構造型モデルがよく知られている。こうしたモデルでは、デフォルト境界を既知の定数とみなしているが、実際にはデフォルト境界は必ずしも一定とは限らず、幅を伴って分布していると想定した方がより現実的である。本稿では、デフォルト境界が不確実性を持つもとでの構造型モデルを提案し、デフォルト確率やデフォルト時損失率の推計方法を提示する。これを優先劣後構造を持つ債権に応用し、デフォルト境界の分布がデフォルト時損失率に強い影響を与えることを具体的な数値例を用いて示す。
キーワード:信用リスク、デフォルト時損失率、不完全情報、優先劣後構造、構造型モデル、リスク管理
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