IMES DISCUSSION PAPER NO.97-J-16
AES
(Advanced Encryption Standard)について
宇根正志
*
要旨
AES
は、現在最も広く利用されている暗号アルゴリズムであるDES(Data Encryption Standard)の後継として、米国政府が策定しようとしている次期米国政府標準暗号の名称である。本年1月、米国政府は、AESのアルゴリズムを公募によって選定する方針を発表した。これは、近年のコンピューター処理能力の向上に伴って、DESの強度が徐々に低下してきており、今後より強度の高い暗号アルゴリズムが標準暗号として認定される必要が高まっているとの認識が強まっているためである。その後、米国政府は、暗号研究者や暗号ユーザーからのコメントを織り込み、本年9月、AESのアルゴリズムの要件、評価基準や今後の選定スケジュールを決定、公表している。本稿では、
AESのアルゴリズムの要件・評価基準決定に至るまでの経緯を、インターネット等から入手した資料を基に整理し、AESの公募方法に関する暗号研究者や暗号ユーザーのコメントを紹介する。米国では、DESが金融ネットワークの安全性確保のために広く利用されており、金融分野における新標準暗号選定への関心は非常に高い。このため、中央銀行(FRB )や銀行協会(ABA)等は、こうした新標準策定作業に積極的に関与している。今回決定されたAESの要件・評価基準にも、FRB等のコメントの多くが採用されている。今後、
AESがDESに代わって米国政府標準暗号として認定されると、金融業務を含めた様々な分野で採用される可能性が高い。こうした観点からも、AESの認定を巡る動きについては、引き続き注視していく必要があるものと考えられる。
キーワード:
AES、DES、NIST、共通鍵ブロック暗号、米国政府標準暗号
JEL classification: L86
、Z00
*
日本銀行金融研究所研究第2課(E-mail: masashi.une@boj.or.jp)
日本銀行金融研究所ディスカッション・ペーパー・シリーズは、金融研究所スタッフおよび外部研究者による研究成果をとりまとめたもので、学界、研究機関等、関連する方々から幅広くコメントを頂戴することを意図している。ただし、論文の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではない。本論文を作成するに当たっては、横浜国立大学の松本勉助教授、
NTT情報通信研究所の岡本龍明特別研究員と太田和夫主幹研究員、三菱電機情報技術総合研究所の反町亨氏から有益なコメントを頂戴した。【目次】
1. AES検討開始に至るまでの経緯2. AES
の候補となるアルゴリズム募集に関する発表(1)AESが満たすべき要件
(2) AESの評価基準
(3) AESの公募・審査手順
3. NIST
発表のAESの要件・評価基準に対する暗号学者や技術者等の反応(1)寄せられたコメントの内容
4. AES
の要件・評価基準に対するFRBのコメント5. AES
の募集要項の発表(1)AESが満たすべき要件
(2)AESの評価基準
今後の展望【脚注】 【別添】
1. AES検討開始に至るまでの経緯
現在、米国政府標準暗号
1に認定されているDESは、鍵長56 bit、ブロック長64 bitの共通鍵ブロック暗号であり、世界で最も広く利用されている暗号アルゴリズムである。DESのアルゴリズムは、NBS2が1973年に実施した米国政府の標準暗号アルゴリズムの公募において、IBM社から提案されたアルゴリズムが原形となっており、NBS等による審査を経て1977年に米国政府標準暗号に認定された。その後、様々な暗号研究者によって
DESの解読法に関する研究が行われ、「差分解読法」3や「線形解読法」4などの方法が提案されたが、DESの安全性にとって致命的となる解読法は未だに見つかっていない。また、候補となるすべての鍵を試してみる「全数探索法」は、解読に必要な計算時間が膨大で現実的な脅威とはならないとされていた。こうした長年にわたるDES強度評価の蓄積によってDESの安全性に対する信頼が高まり、DESは金融をはじめとした幅広い分野において、通信データの暗号化手段として普及してきた。しかし、近年のコンピューター処理能力の向上に伴って、
DESの安全性は徐々に低下してきている5。このため、近い将来、DESよりも安全性の高い暗号アルゴリズムが標準暗号として認定される必要があるとの見方が強まっている。NISTは、1993年の標準暗号の再評価(re-certification)6において、「1998年に行われる次回の標準暗号見直しの際には、DESよりも高い安全性を有する暗号アルゴリズムについて調査し、DESに代わる新しい標準暗号を認定するかどうか検討したい」(FIPS 42-6の但書)と表明し、標準暗号としてのDESの見直しが今後必要となるとの考え方を示した。DES
に代わる暗号方式としては、Triple-DESと呼ばれる暗号方式が利用されている。Triple-DESは、これまで欠陥が発見されていないDESのアルゴリズムを、異なる3つまたは2つの暗号鍵で3回繰り返して暗号化する方法である。ANSI X97では、このTriple-DESを新たな金融業務用の標準暗号(ANSI X9.52)として認定することを現在検討している。もっとも、Triple-DESは、DESを3回繰り返して暗号化するため処理速度がやや遅いほか、当面危険性はないとはいえ、Triple-DES特有の解読法(Merkle-Hellman選択平文攻撃等)の存在が知られていること等から、数年〜10年後に新しい暗号標準が一般に利用可能となるまでの「つなぎ」となる暗号方式と位置付ける向きが多いようである。こうした中、米国政府(
NIST8)は、1997年1月に、1998年の標準暗号見直しに合わせてDESに代わる共通鍵ブロック暗号(標準化後、AES<Advanced Encryption Standard>と呼ばれる予定)を公募すると発表し、同年9月にはアルゴリズムに必要とされる条件、評価基準やアルゴリズムの選定スケジュール等を内容とする募集要項を発表した。この発表により、DESに代わる標準暗号の選定が事実上スタートしたといえる。今後、
AESがDESに代わって米国政府標準暗号として認定されると、金融業務を含めた様々な分野で採用される可能性が高い。こうした観点からも、AESの認定を巡る動きについては、引き続き注視していく必要があるものと考えられる。2. AESの候補となるアルゴリズム募集に関する発表
NIST
は、1997年1月2日にAESのアルゴリズムを募集する方針を発表するとともに、@AESの候補となるアルゴリズムが満すべき要件(Minimum Acceptability Requirements)、A評価基準(Evaluation Criteria)と、B今後の審査手順を発表した9。
1)AESが満たすべき要件
NIST
は、「AESとして認定するアルゴリズムは、候補となる各アルゴリズムに対する暗号研究者等専門家の評価を考慮して決定される」とした上で、満足すべき要件として以下の4つを提案した。@
A
AESの鍵長は可変とする11。B
AESはハードウェアにもソフトウェアにも実装可能とする12。C
AESはロイヤリティ・フリーとする13。2) AESの評価基準
AES
の評価基準として以下の7点が挙げられており、NISTは、各項目の詳細については今後専門家からのコメントを踏まえて決定するとしている。@安全性(解読の困難性)
A処理速度
Bアルゴリズム実装に必要となるメモリー容量
Cハードウェアやソフトウェアへの実装可能性
Dアルゴリズムの構造の単純性
E鍵長やブロック長などのアルゴリズムの柔軟性
F実装する場合のライセンス取得の必要性
また、アルゴリズムの応募の際には、
C言語によって書かれたアルゴリズムのソースコードのほか、現在知られている攻撃方法に対するアルゴリズムの強度評価の結果や、ハードウェアやソフトウェアで実装した場合の処理速度やメモリー容量に関する資料等を提出するように求められている。
AES
の公募・審査手順については、@NISTが発表した要件と評価基準に対するコメントを1997年4月2日まで募集する、A寄せられたコメントを参考にして、AESの技術的要件等を検討するワークショップを開催する、B最終的に決定されたAESの基準等を基に、AESの候補となるアルゴリズムを公募する、というスケジュールの概略を発表した。3. NIST発表のAESの要件・評価基準に対する暗号学者や技術者等の反応
NIST
が1月2日の発表内容に対して一般からコメントを募集した結果、暗号学者、技術者や金融関係者等から25通のコメントが寄せられた14。本節では、これらのコメントの内容を整理する。1)寄せられたコメントの内容
@
「AESとして認定するアルゴリズムは、候補となる各アルゴリズムに対する暗号研究者等専門家の評価を考慮して決定される」点についていずれのコメントも肯定的な見方であり、「インターネット上でアルゴリズムを公開すべきである」とか「アルゴリズムの強度等を研究者に検証してもらうべきである」とのコメントがあった。
A
「AESを共通鍵ブロック暗号とする」点について多くのコメントがこの項目について触れず、鍵長やブロック長についてコメントを寄せており、その意味で肯定的な見方が多かった。ただし、「ブロック暗号よりも高速処理が可能なストリーム暗号
17を最初から除外するのは不自然である」とのコメントもあった。
B
「AESの鍵長は可変とする」点について「この要件では、鍵長が一定である
Triple-DESが対象外となってしまうため、要件を変更すべきである」とのコメントがあったほか、鍵長の上限や下限を設定するという要件に変えた方がよいとのコメントがあった。
C
「AESはソフトウェアにもハードウェアにも実装可能とする」点について「アルゴリズムを実装するアプリケーションを明確にすべきである」とか、「1つのアルゴリズムを
AESとして認定するのではなく、様々なアプリケーションに利用可能なように複数のアルゴリズムをAESとして認定してもよいのではないか」といったコメントが寄せられた。
D
「AESはロイヤリティ・フリーとする」点について多くのコメントが「
AESに認定されるアルゴリズムがロイヤリティ・フリーとなることが好ましい」としている。
E
アルゴリズムの評価基準についてAES
の候補となるアルゴリズムの評価基準については、「7つの評価基準を安全性、コスト、システムの柔軟性の3つに整理すべきである」といったコメントがあったほか、これらの評価基準について技術的側面から様々なコメントが寄せられた。
F
その他その他のコメントとしては、「
AESに認定されるアルゴリズムは輸出可能とすべきである」とか、「DESからAESへの移行が円滑に行われるように適切に対処するべきである」といったコメントがあった。また、AESの認定が終了するまではTriple-DESを一時的に政府標準暗号として認定すべきだ、とのコメントもみられた。
4.AESの要件・評価基準に対するFRBのコメント
このように新標準暗号に関する議論が高まる中で、暗号ユーザーである金融機関、とりわけ
FRBも多大な貢献を行っている。FRBは、1997年1月2日にNISTが発表したAESの要件・評価基準に対し、Raymond Romero氏の名前で、以下の8項目のコメントを表明しており、AESの選定に協力する旨を発表している。これらのコメントは、ほぼすべて最終的な募集要項に盛り込まれた形となっている。− 現在、
<FRBのコメント>
@ブロック長は128 bit以上に設定すべきである。
A鍵長はその下限のみを規定してTriple-DESも候補となるように変更すべきである。
Bパリティ・ビットは、暗号文の冗長性を増加させ解読を比較的容易にする可能性があるほか、他のシステムとの相互接続性が確保されない場合もあるため、パリティ・ビットを鍵長に含めない扱いとすべきである。
Cアルゴリズムの特許については、ISO等の国際標準化における特許の取り扱い方法(原則として、ロイヤリティ・フリーな技術でなければ標準化しない)を参考にすべきである。
Dアルゴリズムの評価基準は、より重要度の高い順に、安全性、システムの柔軟性、コストの3つに整理すべきである。
EAESを様々なアプリケーションに利用可能にするために、複数のアルゴリズムをAESとして認定するという選択肢も考慮すべきである。
FDESからAESへの移行について、コストをあまりかけずに円滑に実施できるようにNISTは配慮すべきである。特に、移行期間中においてDESまたはTriple-DESを利用する金融機関も存在すると予想されることから、NISTはDESに対して十分なサポートを引き続き行うべきである。
GAESのアルゴリズム選定のための具体的なスケジュールを明示すべきである。
5. AESの募集要項の発表
NIST
は、上記のコメント等を踏まえて、1997年9月12日にAESの募集要項22を正式に発表し、@AESの候補となる暗号アルゴリズムが満足すべき要件(Minimum Accessibility Requirements)、A評価基準(Evaluation Criteria)、B知的所有権の扱いや、C今後の選定スケジュール、等について明らかにした。 1) AESが満たすべき要件AES
の候補となるアルゴリズムが満たすべき要件として、以下の4つが挙げられている。@共通鍵暗号であること。
Aブロック暗号であること。
B鍵長は
Cブロック長は
128 bitが利用可能であること。 2)AESの評価基準AES
のアルゴリズムの評価基準として、安全性、コスト、その他のアルゴリズムの特徴、が挙げられており、この順番で評価基準の優先順位が付けられている。@安全性(解読の困難性)
Aコスト
ライセンス要件については、
AESとして認定されるアルゴリズムはロイヤリティ・フリーの取り扱いが可能かどうかが評価対象となる。処理速度に関する評価は、ソフトウェアで実装する場合とハードウェアで実装する場合の両方のケースにおいて行われるが、技術的評価第一ラウンドにおいては鍵長とブロック長をそれぞれ128 bitとした場合の処理速度が測定され、技術的評価第二ラウンドにおいては鍵長128 bitとブロック長128 bitの組み合わせ以外の組み合わせで処理速度が測定される。この2つのラウンドにおける測定結果が評価対象となる。また、実装に必要となるメモリー容量については、ハードウェアに実装する場合には必要となるゲート数23が、ソフトウェアに実装する場合にはRAMの容量が評価対象として利用される。Bその他のアルゴリズムの特徴
様々なアプリケーションへの利用可能性については、例えば、
ATMネットワークや衛星通信等のアプリケーションでも利用可能かどうか、ストリーム暗号、メッセージ認証コード(MAC)、疑似乱数生成装置やハッシュ関数等にも利用可能かどうか等について評価される。ハードウェアやソフトウェアへの適用性に関しては、そのアルゴリズムがハードウェアにのみ実装可能である場合等、用途が制限されていないかどうかについて評価される。 3)アルゴリズムに関する知的所有権の取り扱いAES
として認定されたアルゴリズムは、ロイヤリティ・フリーの扱いとされる。この方針に沿って、NISTは、アルゴリズムの特許所有者やアルゴリズムを実装したアプリケーションの特許所有者に対して、「アルゴリズムがAESとして認定された場合、そのアルゴリズムの使用はロイヤリティ・フリーとする」旨を明記した約定書の提出を要求している。 4)今後のアルゴリズム評価・選定スケジュール今後のアルゴリズムの評価・選定のスケジュールは以下の表1の通り。
表1:今後のアルゴリズム評価・選定スケジュール
|
フェーズ |
作業内容等 |
|
@候補となるアルゴリズムの募集(締め切り日: 1998年6月15日) |
提出資料に不備がないかどうかをチェックし、暗号輸出規制と整合的な形ですべてのアルゴリズムを公開し、一般からのコメントを募集する。 |
|
A第一回 AES候補コンファレンス(日程:1998年夏、具体的な日程は未発表) |
候補の暗号アルゴリズムの提案者がアルゴリズムの説明を行い、コンファレンス参加者からコメントを得る。 |
|
B技術的評価第一ラウンド |
NIST は、第一回のコンファレンスで得たコメントを参考にして候補のアルゴリズムの強度および弱点等を評価し、満たすべき要件を満足しているかどうかをチェックする。アルゴリズムの絞り込みも行う。 |
|
C第二回 AES候補コンファレンス(第一回コンファレンスの約6か月後開催予定) |
NIST による技術的評価第一ラウンドの評価に関して議論するほか、候補アルゴリズムの一層の絞り込みを行う際の留意点について検討する。 |
|
D技術的評価第二ラウンド |
NIST は、安全性、処理速度やアルゴリズムの知的所有権に関してより詳細に検討を行い、候補のアルゴリズムを5つ以下に絞り込む。NISTは、絞り込まれた候補アルゴリズムを公表し、それらに対するコメントを募集する。 |
|
E第三回 AES候補コンファレンス(技術的評価第二ラウンドの結果発表の6〜9か月後に開催予定) |
技術評価第二ラウンドの NISTの選定に対し、一般からのコメントを集約するとともに、アルゴリズムの一層の絞り込みについて検討する。 |
|
F NISTによる最終選定
|
NIST は、AESの候補となるアルゴリズムを決定し、一般からのコメントを募集する。 |
DES
からAESへの移行について、NISTは、「DESの標準暗号見直しが行われる1998年12月までには、AESの選定プロセスは終了しないと考えられる。したがって、アルゴリズムの移行をいかに円滑に進めるかについては、今後関係者と協議しつつ決定する」としている。また、技術的評価の2つのラウンドの概要は以下の通り。
@技術的評価第一ラウンド
評価第一ラウンドでは、主に(i)鍵長とブロック長の組み合わせの利用可能性、(ii)提出されたアルゴリズムの処理結果の正確性、(iii)処理速度が検証される。
鍵長とブロック長の組み合わせの利用可能性については、鍵長、ブロック長とも128 bitに設定し、実際にデータの暗号化が可能かどうかが検証される(これら以外の組み合わせでの利用可能性は第二ラウンドで検証される)。また、アルゴリズムの処理結果の正確性については、予め提出されたサンプルデータを実際にそのアルゴリズムのプログラムを使って暗号化し、その暗号化データと予め提出されたサンプルデータの暗号化データが一致するかどうかが確認される。処理速度の検証では、鍵長、ブロック長をそれぞれ128 bitに設定した場合、暗号鍵のセットアップ、暗号鍵の変更や、暗号化・復号化にそれぞれどの程度の時間がかかるのかが測定される。
− NISTがアルゴリズムの評価に利用するパソコンは、200MHzのIntel Pentium Pro Processorと64MB RAMを搭載し、OSとしてWindows95がインストールされているIBM PC互換機とする。またコンピューター言語としては、C言語とJavaが利用される。
A技術的評価第二ラウンド
評価第二ラウンドでは、鍵長とブロック長の組み合わせが192-128 bitと256-128 bitの場合の(i)利用可能性と(ii)処理速度が検証される。処理速度に関しては、アルゴリズムのセットアップ、暗号鍵のセットアップ、鍵の変更、暗号化および復号化の処理速度を計測し、評価する。
6. 今後の展望
NIST
が発表した募集要項によって、AESの候補となるアルゴリズムは共通鍵ブロック暗号に限定されたほか、その鍵長、ブロック長についても明らかにされた。そこで、現在ISOの暗号アルゴリズム登録制度24に登録されている14の暗号アルゴリズムのうち、アルゴリズムの詳細な仕様が公開されている方式の中で、候補となるアルゴリズムの要件を満足するものがあるかどうかを調べてみる(表2参照)。まず、登録アルゴリズムの中で詳細な仕様が公開されている共通鍵ブロック暗号は7つ存在するが、その中で鍵長が128 bit以上のアルゴリズムは、IDEA、MULTI2、FEALとMISTY1の4つである。しかし、いずれもブロック長が64 bitとなっており、現時点でISOに登録されているアルゴリズムのうち、AESの要件をすべて満足するアルゴリズムは存在せず、仮にこれらのアルゴリズムを利用するとしても改造を加える必要があると考えられている。
表2:
ISOに登録されている暗号アルゴリズム|
暗号アルゴリズム名 |
アルゴリズムの公開の有無 |
登録日 |
提案者(開発者) |
鍵長とブロック長 |
||
|
鍵長 |
ブロック長 |
|||||
| 共通鍵ブロック暗号 |
IDEA | |||||
公開
1993
年5月10日スイス・
Ascom・Tech社128 bit
64 bit
DES
公開
1994
年9月5日米・
NCS25(IBM社)56 bit
64 bit
CDMF
公開
1994
年10月29日米・
IBM社40 bit
64 bit
Skipjack
非公開
1994
年10月31日米・
NSA80 bit
64 bit
RC2 Symmetric Block Cipher
非公開
1994
年10月31日米・
RSA Data Security社可変
64 bit
MULTI2
公開
1994
年11月14日日・日立製作所
256 bit
64 bit
FEAL
公開
1994
年11月14日日・
NTT128 bit
64 bit
SXAL/MBAL
公開
1995
年10月23日日・ローレル・インテリジェント・システム社
64 bit
可変
MISTY1
公開
1996
年11月27日日・三菱電機
128 bit
64 bit
ENCRiP
非公開
1997
年2月12日日・日本電気
64 bit
64 bit
B-Crypt
非公開
1992
年8月19日英・
British Telecom社(ストリーム暗号)
LUC Public-Key Cryptosystem & Digital Signature
公開
1994
年7月20日ニュージーランド・
LUC Encryption Technology 社(公開鍵暗号)
RC4 Symmetric Stream Cipher
非公開
1994
年10月31日米・
RSA Data Security社(ストリーム暗号)
BARAS
非公開
1995
年8月18日フランス・
ETSI26(詳細不明)
(注)水色がかかっているアルゴリズムは、詳細な仕様が公開されている共通鍵ブロック暗号である。
また、これらの既存のアルゴリズムとは別に、例えば
DESの原形を開発したIBM社等が新しい暗号アルゴリズムを応募する可能性もある。NIST
が発表したアルゴリズム選考スケジュールによれば、応募されたアルゴリズムの1つがAESとして正式に認定されるまでに、1年以上の時間が必要となることがわかる。しかし、AESが、アルゴリズムの強度に対する高い信頼を得て、実際に幅広い分野で利用されるようになるためには、AESの標準化終了後さらに数年はかかると考えられる。こうしたAESを巡る動きについては、将来金融分野におけるデータ暗号化手段にも大きな影響を与えると考えられるため、今後も注目していく必要があろう。
以 上
1米国政府標準暗号は、米国連邦政府内で利用されるコンピューターシステムに関する標準規格FIPS(Federal Information Processing Standards)の一部であり、DESはFIPS 46-2に指定されている。なお、FIPSはNISTによって作成されており、「ソフトウェアに関する標準・ガイドライン」や「ハードウェアに関する標準・ガイドライン」など7つのカテゴリーに分類される。DESが規定されているFIPS 46-2は、「コンピューターセキュリティに関する標準・ガイドライン」に分類されている。 2 NBS(National Bureau of Standard)は、米国内における科学技術全般の標準規格を策定する政府機関であった。1988年から、NIST(National Institute of Standards and Technology)と名称変更されている。 3 差分解読法は、1990年に暗号研究者のBiham(イスラエル科学技術研究所<通称テクニオン>)とShamir(イスラエル・バイツマン研究所)が考案した解読法で、ある特定の差分を持つ一組の平文のペアに対して、特定の差分を持つ暗号文のペアが生じる確率が高くなる場合に、それらの平文と暗号文のペアに基づいて暗号鍵を推測する方法である。 4 線形解読法は、1993年に三菱電機・情報技術総合研究所の松井充氏(共通鍵ブロック鍵暗号MISTYの考案者の1人)が考案した方法で、平文と暗号文のいくつかのbitの排他的論理和が暗号鍵のいくつかのbitの排他的論理和と等しくなる確率が0.5から乖離する場合に、この乖離を最大にする線形の近似式を構成して暗号鍵を推測する方法である。 5 例えば、線形解読法によって、12台のワークステーションを使って50日で解読できたという研究結果が報告されているほか、タイムメモリートレードオフ法(予め暗号文と鍵の対応が分かるような索引表を作成しておき、暗号文入手後短時間で鍵の探索を可能にする解読法)を利用することにより、専用解読装置の開発費用を除けば、数時間程度での解読が現実的な費用で実施できる可能性も別の研究結果によって示されている。 6 NBSは、1977年にDESを標準暗号として認定した時に、DESが強度等の観点から標準暗号として適格かどうかを1983年から5年ごとに再評価(re-certification)することとしており、これまで3回(1983年、1988年、1993年)の再評価が行われ、いずれもDESが標準暗号として認定されている。 7 ANSI(American National Standards Institute)は、米国内の技術標準を策定する民間の標準化機関であり、ISO(International Organization for Standardization)の米国代表である。X9は、金融機関における情報システム技術の標準規格を策定する委員会である。 8 NISTについては、脚注2を参照。 9 発表内容は、NIST[5]に掲載されている。 10 共通鍵ブロック暗号は、共通鍵暗号とブロック暗号の両方の性質を兼ね備えた暗号方式である。共通鍵暗号とは、暗号化と復号化に同じ鍵を利用する暗号方式であり、ブロック暗号とは、暗号化するデータをある一定の長さのブロックに分割し、すべてのブロックを同じ鍵で暗号化する方式である。 11 DESをはじめ多くのブロック暗号は、鍵長とブロック長が固定されている。この要件は、実装するアプリケーションに応じて鍵長を変更することができるように、アルゴリズムを設計することを意味している。 12 この要件は、AESが、専用チップによって暗号化・復号化の高速処理が可能となるアルゴリズムであると同時に、プログラムと汎用チップによって安価に実装することも可能となるアルゴリズムでなければならないということを意味している。 13 この要件は、AESのアルゴリズムを使用する場合に特許使用料等を支払う必要がないことを意味している。したがって、AESのアルゴリズムに特許が存在する場合、その特許所有者はAESの利用に対する特許使用料を請求しないことを表明しなければならない。なお、DESに関しては、DESの特許(U.S. Patent Number 3,962,539<出願日1975年2月24日>)を所有していたIBM社がロイヤリティ・フリーでのDESの使用を容認すると表明したことについて、FIPS 46-2に明記されている。 14コメントの全文は、NIST[6]に公開されている。 15 Ronald Rivest氏は、RSA暗号の発明者の一人である高名な暗号学者。共通鍵ブロック暗号のRC5の発明者でもある。 16 TIS(Trusted Information System)社は、米国Maryland州Glenwoodを本拠とする情報セキュリティ製品の有力なベンダー。暗号ソフトウェアの開発サポート、ファイヤーウォール製品の製造・販売やコンサルタント業務を行っている。 17 ストリーム暗号は、暗号化するデータの各ブロック(1〜数bit単位)に対応する鍵の系列(鍵ストリーム)を生成し、暗号化するデータの各ブロックとそれに対応する鍵ストリームの排他的論理和を計算することにより暗号化する方式である。データの処理速度に関しては、一般的には、専用チップを利用することによってブロック暗号よりも高速処理が可能になるといわれている。 18 Netcom社は米国California州Sun Joseを拠点としているインターネット・プロバイダー。 19 Cindy Fuller氏は、米国銀行協会の職員で、ISO/TC68(国際標準化機構の金融専門委員会)とANSI X9の事務局長を務めている。 20 反町亨氏は、三菱電機・情報技術総合研究所において、暗号アルゴリズムの開発に従事している研究者。 21 RSA Laboratoriesは、RSA Data Security社の研究所で、暗号研究や暗号ソフトウェアの開発、コンサルタントを行っている。RSA Data Security社は、米国California州San Franciscoを本拠とする有力暗号ベンダーであり、公開鍵暗号方式のRSA暗号や、共通鍵暗号方式のRC2、RC4やRC5を実装した暗号製品を供給している。 22 AESの募集要項は、NIST[7]に公開されている。 23 ゲートは、電子回路のパーツの1つで、入力端子に与えられた入力信号を論理演算によって処理し、その結果を出力端子から出力する機能をもつ。 24 ISOの暗号アルゴリズム登録制度は、情報セキュリティ技術の標準化を担当するISO/IEC JTC1/SC27(以下、SC27)が、暗号化機能を有する製品の流通性を高めるために、1991年にその登録手続きをISO/IEC 9979 Information technology - Security techniques - Procedures for the registration of cryptographic algorithms に定めたことから発足した。アルゴリズムを登録するためには、アルゴリズムのISOエントリー名、固有の名称、適用範囲(データの秘匿、認証等)、入出力のパラメーター等9つの必須項目と4つの選択項目を登録機関(現在、英国 National Computing Centre)に報告する必要がある。ただし、アルゴリズムの詳細な仕様を報告する義務がないため、データ処理過程が十分公開されていないアルゴリズムも登録の対象となるほか、登録機関等によるアルゴリズムの強度評価は登録手続きに盛り込まれていない。 25 NCS(National Communications System)は、米国防総省の下部組織の1つで、主として災害等の非常時における政府の情報通信ネットワーク確保のために、政府の情報通信インフラの整備や関連技術の標準化等の役割を担っている。 26 ETSI(European Telecommunications Standards Institute)は、418のヨーロッパ各国の標準化組織や企業によって構成される、情報通信技術に関する標準化団体。
[2]Menezes, A. J., P. C. Oorschot and S. A. Vanstone, Handbook of Applied Cryptography, CRC Press, 1997.
[3]Morita H., "Registration and Standardization of Cryptographic Algorithms in the SC 27 Committee," Workshop on Design and Evaluation of Cryptographic Algorithms, Nov 27, 1996.
[4]National Institute of Standards and Technology, "Data Encryption Standard
(DES)," Federal Information Processing Standards Publication(FIPS PUB)46-2, December 13, 1993.[5]National Institute of Standards and Technology, "Announcing Development of a Federal Information Processing Standard for Advanced Encryption Standard,"
(URL: http://csrc.nist.gov/encryption/aes/aes_fr1.txt), January 2, 1997.[6]National Institute of Standards and Technology, "AES Comments
(e-mail)," (URL:http://csrc.nist.gov/encryption/aes/comments.txt), April, 1997.[7]National Institute of Standards and Technology, "Announcing Request for Candidate Algorithm Nominations for the Advanced Encryption Standard
(AES)," (URL:http://csrc.nist.gov/encryption/aes/aes_9709.htm), September 12, 1997.[8]Schneier, B., E-mail Security, John Wiley & Sons, Inc., 1995.
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For Release: |
Contact: | |
|---|---|---|
April 2, 1997 |
Joe Elstner, St. Louis - (314) 444-8902 Sandra Conlan, San Francisco - (415) 974-3231 Gwen Byer, Richmond - (804) 697-8105 |
ST. LOUIS--The Federal Reserve is evaluating an advanced application of the Data Encryption Standard (DES), known as Triple DES, to protect data that are transmitted electronically between the Federal Reserve Banks and between the Federal Reserve and financial institutions. Federal Reserve officials said that if the new standard proves effective, an announcement about actual implementation can be expected in early 1998.
The Federal Reserve is an active participant in the X9 committee of the American National Standards Institute (ANSI), which is completing a standards document for Triple DES. "Our active role in developing improved data security techniques, of which Triple DES is one component, helps provide assurance that transactions with the Federal Reserve will continue to be safe and secure from cryptographic crime," said Bruce J. Summers, director of automation resources for the Federal Reserve. "This year we will be testing Triple DES and working on an implementation plan, coordinating with vendors of encryption products and our customers."
The Federal Reserve currently uses DES to secure electronic information and will spend the next several months completing its analysis of Triple DES. "Triple DES significantly increases data security because it invokes DES three times," Summers said. "With each iteration, it is possible to use a different encryption key value, which results in a longer overall key value that is far more resistant to attack." Certain Triple DES operating modes are also compatible with the Fed's current DES implementations, which will ensure a smoother transition for Federal Reserve customers.
The Fed is also following a National Institute of Standards and Technology (NIST) project to develop an advanced encryption standard to eventually replace DES. Summers believes that, while the Fed should closely monitor such activities and study other options being developed, it must be at the forefront of data security implementations and be prepared to use Triple DES to provide continued security until a new standard is ready. "Our evaluation of Triple DES is a continuation of the Fed's efforts to ensure that the highest levels of security are applied to Federal Reserve operations and payment services," said Summers.