金融研究第17巻第1号(1998年4月発行)
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金融取引における受認者の義務と投資家の権利

 本稿は、第一線の法学者(前田庸、能見善久、樋口範雄、神田秀樹、道垣内弘人)と日本銀行のスタッフが参加した「金融取引における信託の今日的意義に関する法律問題研究会」の報告書である。
 従来、わが国では、証券ブローカー、信託受託者、投資顧問業者、証券カストディアンなど、金融サービスの提供者の介在する金融取引における投資家・顧客の保護は、主として業法に基づく金融機関規制を通じて実現されてきた。しかしながら、今後は、本格的な規制緩和時代を迎え、金融取引当事者間の権利義務関係を規整するルールこそが、投資家・顧客の保護において中心的役割を担うべきこととなろう。
 本報告書では、金融取引における投資家・顧客と、その意向を受けて金融資産の移転・管理・運用等を行う金融サービス提供者との間の関係について、具体的な事例に即しながら論じている。
 英米では、こうした投資家・顧客と金融サービス提供者との関係を、「信認」によって結ばれた fiduciary relationship(信認関係)という観点から理解することが多い。こうした信認を受けた者は fiduciary(受認者または信認義務者)と呼ばれ、その典型的な例が信託(trust)における受託者(trustee)である。そこでは、信託の受託者の義務と受益者の権利に関する法理、すなわち信託法理が、狭義の信託以外の信認関係にも広く適用されてきた。
 そこでこのような問題意識から、本報告書では、英米法に見られる信認関係を切り口に、金融取引における「金融取引当事者間の権利義務関係を規整するルール」のあり方を論じている。
本報告書は、まずIにおいて、受認者が破産した場合の投資家・顧客の権利保護に関する考え方を取り上げた。そこでは、投資家が具体的・実質的利益を有する資産(投資家資産)が、形式的に受認者名義となっていても、仮に分別管理等の手法によって、受認者の固有財産と区別できる程度の特定があれば、受認者破産に際し取戻権の行使や差押えに対する第三者異議の訴えを認めるべきではないかという考え方を議論している。その場合に手掛かりとなるものとして、商法の問屋法理や信託法が考えられる。
 次いでIIにおいて、投資家資産に関して生じた債務を巡る受認者、投資家および債権者の間での損失分担のあり方を考察した。現行法上、信託型ファンドの受託者等の受認者は、ファンドの管理・運用に関連して負担した債務について無限責任を負っているが、その責任をファンド財産に限定する趣旨の責任財産限定特約(ノンリコース特約)を締結することは有効と考えられている。また、こうした債務を固有財産から弁済した受認者によって求償された投資家は原則として無限責任を負っているが、この点についても検討が望まれる。
 最後にIIIにおいて、受認者の利益相反行為に係る諸問題を取り上げている。金融取引において受認者が利益相反状況に身を置くことを一律禁止するのは現実的ではなく、取引の制約要因ともなり得る。そこで、忠実義務違反の行為を無効と扱うルール、一定の損害賠償責任を負わすルール、受認者が利益相反状況にあることを開示させるルールなどを設ける考え方が議論されている。


本稿で示されている意見は、日本銀行あるいは金融研究所の公式見解を示すものではありません。

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